あ〜 コンラン、何度も見返す不審者のようなおばさんに気付き、
何コレ、私もとうとう例の症状が出てきたのかしら、思ったより早いわ。
「あ、ゴメンナサイ、若い頃の思い出の中に今戻ったような気がして、
イヤーね、年を取るとコンランするの」「きっと良い思い出なんだろうな」
「良い思い出だけとっておくの」「そんな風に上手く行くと良いな」
もしかして…って思って… ホントにごめんなさいね、失礼しました」
「矢崎さん… 矢崎順太郎さん…」「矢崎順一です。順太郎は父です」
「あー やっぱり! あ、ゴメンナサイ」「イエ」「あ、やっぱり」
「父は一昨年亡くなりました」「そうでしたか、それは… でもきっと
良い人生でしたでしょうね、あなたを見ているとそんな気がする」
「岩永さゆりさん…」「真似したワケじゃないのよ、あの、たまたま
ジュンだった。「何でこれがわかんないんだよ、さゆり、お前あったま
悪りーな」「だって、こんな公式覚えたって社会に出て何の役にも
立たないもん」「だけど、学生はベンキョーしなきゃダメなの、一生懸命
勉強して、ちょっとやそっとじゃメゲない人間になるんだ、わかるか?」
子どもっぽいところがあるのに、そのくせ説経がましいことを言った。
いつになくジュンが「さゆり、今日は送ってくよ… 考えてみれば、
くんだろーなー」「絶対そんな風にはならないよ」「さゆり、お前社会って
そんなに甘いもんじゃないんだぞ」「でもさ、ジュンならお調子者だから
上司とも上手くやっていけるね」「そうだな、オレ結構得意かも」
「アハハハ…」「ドキドキするな」「ドキドキするね」恋と言える程の
心が落ち着いた。漠然とだけど。「さゆり… オレさ… 多分お前みたいな
奴と結婚すると思う」「は? お前みたいな奴って何よ!」「だからさ、
何かお前みたいに気遣わなくて良くってさ、お前みたいに色気のない
「良いんだぜ、喜んで」「全然嬉しくないけど」ジュンはふと真顔になり
私を見つめた。「何よ、こわい顔して」そして私をギュッと抱きしめ、
初めてのキスだった。「じゃあな、頑張れよ、ちょっとやそっとじゃ
メゲない強い人間になろうぜ」優しい目で言うと背を向けて足早に駅の方へ
今もきこえるでしょう Where have all the flowers gone
ジュンはこんな風に思った事あるかしら、あの、いわゆるタラレバ?
もしあの時こうしていたら、あ、もしもあの時ああしていれば…って。
私、何回も思った。自分が本当に思うような人生を歩いているのか。
何だか道標を探せないまま、別の角を曲がってしまったんじゃないかって。
でも、不思議ね。少し良い事があると、あ、やっぱり良いんだ、これで
間違っていなかった…ってホッとする。「でもまた少し経つと同じ事の
繰り返し、またキツーイ坂道がはじまるんだ、でもそれってマンザラでも
ないんだぜ」「うん、わかる、気がつけばまた」「ちょっとやそっとじゃ
メゲない強い人間になっている アハハハ…」ね、どうなるのかな、
これから先の展開は。何度も空を見上げ、私は負けない、乗り越えて
みせる!って叫んだ。その代わり嬉しい事があった時には「ありがとう!」
って空に報告するの。そうすると空も喜んで「よかったなー」って一緒に
笑ってくれるような気がして余計嬉しくなるの。「言ってたよ、空や雲が、
ウルセエって」「ハハハ、やっぱり」「アハハハ」 じゃ、聞こえるね、