「おい、あそこに倒れているのは草薙嬢か? 鷺島、すぐに医者を呼べ!」
「被害者とのご関係は? 面識がおありなんですよね? ただの友人ですか?
「密くん、それではワタシが演技でなく鬱陶しいようじゃないか」
「犯人として僕が疑われているんだ。黙ってはいられないだろう」
「草薙嬢の兄君、草薙静馬さまと、草薙嬢の婚約者、相馬京一さまです」
「事件の捜査は我々警察がする。素人が出しゃばった真似をするな!」
「妹は恨みを買うような娘ではありません。賢く気立てもよく誰からも
「彼女は婚約者として完璧な女性でした。私にはもったいないくらいの
「二人には殺害の動機がない。君は彼女を失いたくないという思いがあった。
「ミステリのセオリーなのだよ。最も意外な人物が犯人というのはね」
「私も今日はこれで。彼女を亡くしてからどうも体調が優れなくて」
「刑事さんが犯人とは……痛快でした。あの刑事さん、あまり感じのいい人
「妹を亡くしてから久しぶりに笑いました。ひょんな出会いというものは、
「板の上って不思議だね。ここでなら、いくらでも呼吸ができる」
「彼女を殺したのはオレじゃない。東条志岐の襲撃にも失敗した。
「……他にも女がいるんだよ。あの娘と婚約したのは財産目当てだ」
「あんなつまんねえ女と結婚したいわけねえだろ。けど一生金には
「他の女達がいることを草薙の主に知られたら、今もらってる援助も
無くなっちまう。ったく、とんだ貧乏くじだぜ。死ぬんなら結婚した後に
「お前が殺してないのはわかった。が、脅迫罪に家宅侵入罪。他にも余罪が
「そうですか。……その本から漂う香り、コリウスの花の香りですね」
「だから犯人捜しはおやめになりますかと申したでしょう。志岐さまは
「愛する妹をあの男に嫁がせるのが我慢ならなかった。私が奴の本性に
「ナイフは正面から静かに突き立てられていた。もみ合った形跡もなく」
「草薙嬢は望まぬ相手に嫁ぐより、愛する兄に殺されることを選んだのかも
「正面から? もみ合った? 何のことだか意味がわからん。だから、
「珍しくご傷心なのでは……いえ、差し出がましいことを申し上げる