女房子供にゃすまないけれど 退くに退けない端歩(はしほ)突き
「小春、生きとったんかあ!よかったよかった。ワイは心配で心配で…」
「あんた、わてがどないな気持ちで生き恥さらして帰ってきたんか、
あんた知りはれしまへんやろ!−あたいらがお母ちゃんといくのは
お父ちゃんはご飯もよう炊かはらへんし、お腹すいて死んでしまいはる、
「かめへん、かめへんねん。小春、ワイはもう金輪際将棋は指せへん。
「あんたは本真に将棋が好きなんやな。よっしゃ、かめしまへん。
「お父ちゃん、行ったらあかん。関根はんには何遍も勝ってんのに、
小春やったら早よ行け言うて怒りよる。ほな、お父ちゃん行ってくるで。」
「関根はん、坂田でおます。十三世名人襲名お目出度うさんです。
「何や電話か。小春がどうしたって。玉江か、エッ、小春が危篤やて、
危篤てなんやなんのこっちゃ。小春出して、早よ小春出してえな!