檸檬-さだまさし

或の日湯島聖堂の白い石の階段に腰かけて

君は陽溜まりの中へ盗んだ檸檬細い手でかざす

それを暫くみつめた後で

きれいねと云った後で齧る

指のすきまから蒼い空に

金糸雀色の風が舞う

喰べかけの檸檬聖橋から放る

快速電車の赤い色がそれとすれ違う

川面に波紋の拡がり数えたあと

小さな溜息混じりに振り返り

捨て去る時には こうして出来るだけ

遠くへ投げ上げるものよ

君はスクランブル交差点斜めに渡り

乍ら不意に涙ぐんで

まるでこの町は青春達の姥捨山みたいだという

ねェほらそこにもここにも

かつて使い棄てられた愛が落ちてる

時の流れという名の鳩が舞い下りて

それをついばんでいる

喰べかけの夢を聖橋 から放る

各駅停車の檸檬色がそれをかみくだく

二人の波紋の拡がり数えたあと

小さな溜息混じりに振り返り

消え去る時には こうしてあっけなく

静かに堕ちてゆくものよ

発売日:1998-05-21

歌手:さだまさし

作詞:さだまさし

作曲:さだまさし