パンドラの牢獄-DarkestoRy

歴史を変えるのはいつも、誰かが言ったひとつの【言葉】。

世界が夜になるはじまりは、この最悪の物語[ダーケストーリー]。

少年[サウロ]は途方に暮れた。

今日もあいつらに虐められてしまったのだ。

「早く帰りたい……」

サウロは泣きながら、誰もいない牢獄を磨き続けた――。

華麗なこの街[ダルカ]に、僕の居場所はどこにもない。

【言葉】を交わす友達もいない。

ひとり逃げ出そうにも、僕にはそんな勇気もない。

お願い、誰か僕を見つけてくれよ。

見知らぬ地下牢……呼び声がこだまする。

「そこにいるの……?」

誰なのか知りたい。その姿を見たい。

魅せられたサウロは、もう引き返せない。

麗しく澄んだ青い眼。穢れを知らぬ黎[くろ]い髪。

天使が僕に微笑みかける。

「私が、願いを叶えてあげる」

彼には初めてのこと。誰かと【言葉】を交わすのは。

世界を塗り潰すはじまりは、小さな恋でした。

その天使、イリスはひとりぼっちだった。

なぜこんな地下牢にいるのか、それはどうだっていい。

孤独なサウロにとって、イリスは唯一の理解者なのだ。

そして彼は、夜ごとその牢獄を訪れる。

僕のどんな願いも、不思議と叶えてくれる。

彼女は、きっと本当に天使なんだろう

なのに、あいつら。

僕に悪魔が憑いてると蹴りつけた。

「違う……!」

僕にとってむしろ【言葉】を聞きもせず、

嘲笑うお前らが悪魔に見える……!

傷だらけのその心。涙に濡れるその両手が、

禁じられた牢獄を開けてしまう。

「ここから、ふたりで逃げ出そうよ」

彼には初めてのこと。愛で何も見えなくなるのは。

世界は僕にとっての牢獄だ。壊れてしまえばいい。

姿形[すがた]の違う者たちが、恋愛[あい]し合うのは難しい。

午前0時。約束の時間に、イリスは現れなかった。

異変に気付いたのは、その時。

街[ダルカ]から惨憺たる声が聞こえてくるのだ。

暗闇に震える心を押して、サウロは街の方角へ走った。

本当は分かっている。自分が一体何を解き放ってしまったのか。

それでもサウロは、あの天使を――

【言葉】を、信じていたかった。

やっと会えた。ねぇ顔を見せて。天使のように微笑んで。

「……イリス?」

いや……その姿、もう彼女ではない。

あぁまさか。月が照らす、天使の素顔。

君は――

「夜の悪魔[ヴァンヒール]……!」

それは、悍ましい紅い眼。あぁ、血に飢えた皓[しろ]い牙。

悪魔が僕に微笑みかける。

君だけを愛してたのに、イリス……!

……本当に愛しているわ、サウロ。だから世界を壊してあげるわ。

ただ、あなたには私の愛の手段[かたち]が、“悪意”に映[みえ]るだけ。

悪魔の女が愛を交配[かわ]す手段は、ただひとつ。

心から愛した男を、喰い殺す事である。

牢獄を開けて放たれたのは、まさしく“悪意[あい]”でした。

一夜にして、首都ダルカは堕ちた。

たったひとりの悪魔の【言葉】によって。

かの王国ミンストラは、これから50年余り続く悪魔の支配――

“黒い時代”を迎えるのである。

やがてイリスは、ひとりの男の子を産む。

愛する我が子に“悪意”という皮肉を込めて、

“マリス[Malice]”と名付けた。

発売日:2020-12-02

歌手:DarkestoRy

作詞:奏音69

作曲:奏音69