天国と地獄-太田裕美

太陽が微笑みかける 風の街

空(す)いた電車に広告が舞う

アネモネの鉢ひとつひざに乗せ

風を枕に 私うたたね

のどかな のどかな 日曜日の午後

聞いて ねえ 今日電車でいねむりしたらね こわい夢を見たの

あなたに話してあげようと想って 一生懸命記憶したわ

窓にはまだ咲かないはずの ハイビスカスが花をつけてたから きっと夏ね

家具の配置もずれてたけど あれは確かに 私の部屋よ

ラジオが正午の時報を告げて すぐあとだったわ

急にグラッと来たの

私ソファーにかじりつきながら 呪文のように呟いた

きっとあなたが救けに来てくれるって…… ああこわい夢

鉄橋は川のボートを見下ろして

遠いグランド 野球の試合

うきうきと子供達降りてゆく

陽だまりの駅『遊園地前』

のどかな のどかな 日曜日の午後

聞いて ねえ 東の窓から見てたの アスファルトが陽炎みたいに波打って

火傷をした猫みたいに車が踊ってた

西の窓から見てたの 高速道路があめん棒みたいにねじ曲って

あちこちから噴水のように水が吹き出てたわ

南の窓では 炎が空を焦して 夕焼けみたいに 真紅のベールが

恐いほど 綺麗だったわ

北の窓には もう逃げる人がひしめいていたけど 私 祈ってた

きっとあなたが救けに来てくれるって…… ああこわい夢

終点の駅ビルの中 ケーキ買って

前の広場でタクシー拾う

ロードショー ビルの壁 絵看板

評判通りに面白そうね

のどかな のどかな 日曜日の午後

聞いてるの? ねえ TVではアナウンサーさえ半分逃げ腰で

「原因不明です」と言ったきり 画面から消えてしまったの

昨日までの幸福が 手のひらで灰になるってほんとうね

人間の築きあげたものなんて 自然の腕のひとひねりで崩れるのよ

でも人の愛まで切り裂けないはず 火の手がそこまで来ても

あなたの事を想うだけで 不思議に落ち着いてきたわ

だからドアがバタンと開いて その時目が覚めても 私信じてた

きっとあなたが救けに来てくれるって…… ああこわい夢

水の音 あなたの部屋のキッチンで

背中で喋る夢のあらすじ

語り終え テレビへと振り向けば

いやね あなたはすやすや寝息

のどかな のどかな 日曜日の午後

ねえ! ほんとの地震の時 救けに来てくれる気はあるの!?

発売日:1991-09-14

歌手:太田裕美

作詞:松本隆・太田裕美

作曲:筒美京平・萩田光雄