ビルの最上階-井上陽水

15階建てのビルの14階はテレビ局のフロア

クイズ番組の答えを横流しするディレクターのまなざし

呼び止められて振り返る司会者と

プロデューサーの長い廊下のお喋り

スタジオの下は13階で弁護士の法律事務所

離婚問題で溢れ出た妻や夫達の憎しみの言葉

焚きつけられて燃え盛る被害者と

卑怯者呼ばわりされて怒る加害者

下に行くにつれて12階は子供達のペットショップフロア

御婦人達も老人もさみしさに耐えかね

アビシニアン、ダルメシアン、スコティッシュフォールド

アメリカンショートヘアーも適正な価格で

最果ての国から送られてくるキャビアとトリュフ、フォアグラ

11階は食品の宝石を扱う貿易会社の事務所

コンピューターと為替レートに揺らぐ

決断の遅いベテランの味覚と舌先

思いがけず10階は客の入らない映画館

週末だけは孤独なカップル達がチラホラ

ポテトチップスがコーラに流されて

溶けながら闇の中へ消えて行く

9階と8階と7階はラブホテルのフロア

数限りなくシーツとコンドームが汚され

扉を開ける時の気分と

閉める時の気分の違いをいえば不条理

人知れず6階はアフリカの聞き覚えのない国の大使館

緑色と赤と黒の国旗からは遠いサバンナが感じられ

大使館で働く4人のうちの1人は

観光ビザのまま出前のランチを頼んでいる

5階、4階は安全を売る警備保障の会社

連日連夜 警報ランプが赤く光り鳴り続け

ヒステリックなコードと諦めかけたムードが

火災警報に絡まり合って燃えている

3階、2階、1階は3種類のコンビニエンスストア

すべて考えぬかれた場所に決まりきった商品が並べられ

便利さの影から防犯カメラが

私達を1人残らず映し撮っている

地下3階は何とギャング達のギャンブリングフロア

悪だくみと友情と札束の取引の場所

郵便配達も税務署もなく

それでも国際交流はいつになく激しく

15階建てのビルの最上階は今もなおミステリー

誰が住んでるのか何をしているのか知る人はいない

楽観的に見ても 悲観的にも

不可解な空白が青空に浮かんだまま

発売日:1998-03-18

歌手:井上陽水

作詞:井上陽水

作曲:井上陽水