無垢の砂〜「パリは燃えているか」によせて〜-加藤登紀子

時間という大きな土のかたまりは

さらさらとふるいにかけられて

静かに地面に落ちていく

物言わぬ無名の人たちは

静かな白い砂粒だ

そこはどんな国だったか どんな言葉を話したか

どんな神様を拝んだか

それはどこにも残らない

平和を愛し生きた人々は

静かな白い砂粒だ

いつか海の底に集まり永遠の眠りについている

ふるいにかけられた石ころは

時間の外に捨てられた

ごりごりと醜い鉄くずは

捨てることさえはばかられた

どぎつく彩られた王冠も

金文字の刻まれた墓石も

永遠の砂浜には決して帰ることはない

いつからか時間の外に捨てられた

石ころや鉄くずや王冠や墓石を

人々は歴史と名付けた

物言わぬ白い砂は永遠の時間

平和を愛し生きた人々の美しい言葉はいつか

海の歌に変わる

いつの日か歴史という大きな墓標が

無残に朽ち果てた時

人々は海の歌をうたう日をむかえるだろうか

発売日:2015-11-18

歌手:加藤登紀子

作詞:加藤登紀子

作曲:加古隆